ことりさんの憂鬱 〜10話〜

竜宮たつき


「ことり、とってもおいしいよ。このカレー」
「そうだろう樹君、昨日二人で作ったんだよ。ねぇー、ことり?」
「………」
 三人で食卓を囲んでいる間の会話はほとんどが千秋と晃一で、ことりはほとんど口を開くことはなかった。
「ことり〜、どうして無視するんだよ〜。そんな親不孝な子を持って父さんは悲しいよ〜」
「……フン!」
 千秋は半分泣きそうになりながら娘をなだめようとしている。
「ほら、ことり、千秋さんが泣きそうだよ」
 ことりは晃一の言葉にチラッと千秋のほうを見てから、
「……ベーっだ!」
 また千秋から顔を背けてしまった。
 そんなことりの態度に晃一と千秋は顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。

 ご飯を食べお腹いっぱいになって機嫌を持ち直したことりは、ニコニコとチェーンに通された指輪を眺め続けていた。
「気に入っってくれた? そのネックレス」
 ことりはコクコクとうなずきながら、
「指輪……、ずっと、一緒………」
 ことりはほのかに赤くなりながらそうつぶやいていた。
「ずっと、一緒か……」
 晃一は確認するようそう呟いた。
「……樹、くん?」
 ことりは立ち止まって、晃一の名前を呼んだ。
「ん、どうしたの?」
「樹くんは、あたしとずっと……一緒に、いてくれる?」
 ことりは晃一のほうを見ながら問いかけた。
「……もちろん、僕はことりのために、安らげる場所を用意するよ、疲れた小鳥が羽根を休める樹の枝ように」
 渾身の勇気を振り絞り、晃一の普段は言わないようなくさいセリフに対してことりは、
「フフッ、雰囲気違うね……、樹くん」
「そうだね、言わなきゃよかったかも」
 そんな晃一の言葉に対してことりは首を横に振って、
「一生……、面倒……、見てくれる、の?」
 そんなことりの台詞に晃一は片ひざをつけて、
「仰せのままに、お姫さま」
 冗談っぽく言った晃一に対してことりは、
「よろしく……ナイト様………それと、ちぃ?」
「あっはっは、見つかってたか〜」
 キッチンの方からニコニコと笑顔で見ていた千秋の存在に気づいていなかった晃一は絶句するしかなかった。


「……樹くん、大丈夫?」
 そろそろいい時間になったため、晃一は帰ることになり、ことりと玄関まできた。
「うん、まあ、なんとか」
 たった一日で晃一とことりは父親公認の仲となった。
 しかも千秋は晃一を義息子にする気が満々で、ことりの機嫌もまた悪くなったりしていた。
「ことりはどうだった、僕のセリフ?」
 ことりは首を左右に揺らしながら考え、
「………バカ?」
「あっはっは……」
 ことりの一言は晃一の心の傷を拡げた。
 若干視線が下に向いてしまった晃一の背中をぽんぽんとことりが叩いた。
「……うれしかった、から……ありがとう、樹くん」
 顔を上げた晃一にことりは少し赤くなりながら言った。
「えっ、あ〜〜、うん、どういたしまして」
 晃一はことりの突然の一言に、まともに答えることができなかった。
 そんな晃一をことりは満面の笑みで見ている。
 晃一は見つめられるまま視点を少しずらすと、ことりの首には買ったばかりのネックレスがかかっていた。
「気に入ってくれた? その指輪」
 少しの間をおいて、
「一生、面倒………、みてくれる、でしょ?」
 ことりは見上げるように晃一を見つめている。
「………好きだから、ことりのこと」
「………」
 晃一の告白に、今度はことりは固まってしまった。
「……大丈夫、ことり?」
 ことりはコクコクと頷き、手招きし自分の耳を指差した。
 手招きに答えるように晃一は、耳の高さをことりの口の高さにあわせると耳元で、
「だ〜いすき……キャッ」
 今度は晃一が絶句した。足は固まったまま動こうとしない。
「………樹くん、大丈夫?」
 にやけた笑顔でことりは晃一の顔を覗きこもうとしている。
「…………な――なんとか」
「ウフフ……、てれ、ちゃって♪」
 そんなやり取りの中、晃一は一つの展望を見た気がした。
(僕はずっとこんな感じで、ことりに主導権を握られたまま過ごすことになるんだろうな)
 しかしそんなイメージは嫌なものではなかった。
「これからもよろしく、ことり」
「ワタシも、よろしく。………コ――樹くん」
 今の一言で、晃一は下の名前で呼ばれる日があることを確認した。
 まずはそこから始めよう、晃一はそう決心した。
 
 終わり・・・

 あとがき

 というわけで、『ことりさんの憂鬱』無事に完結しました、館長の竜宮たつきです。
 全10話、無事に完結できてよかったですね〜(他人事)。
 ことりさんと晃一君はきっと幸せになるでしょう、上下関係はないでしょうが、きっとことりは常に優位にいるんでしょうね。
 ツンデレ、なんていうのも好きなんですが、個人的には不思議ちゃんが大好物ですね。
 るーことか、和泉子とか、ザジーとかねwww
 上記三人、全員分かる貴方、友達から始めましょうwww
 このお話は今回でお終い、来週からはどうしましょうかね?
 書き溜めはいろいろあるので、適当に選んで加筆修正してあげるとしましょう。
 『姉妹物語』も季節が追いついてくれたので、修正してからあげていくとしましょう。
 次も来週の金曜日、その日にまた逢いましょう。
 というわけでそろそろおいとまするとしましょう、竜宮たつきでした。



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