〜山の中腹〜
周囲に音が雑然と鳴り響き、耳を澄ませば様々な音が聞こえています。
「………いる」
ツキコの声は周囲の音に吸い込まれるように、すっと消えていきます。
息を潜め、耳に神経を集中し、すぐにでも物音のほうに耳を向けられるように、腰を屈めて集中しています。
―カサッ―
草を掻き分ける音に、
「そこっ!」
ツキコは手にしていた弓弦を引いて、素早く矢を射ます。
「きゅぅ」
ツキコが射た矢はウサギの足に刺さり、使えなくなった足を引きずりながらもウサギは逃げようとしています。
そこから、ツキコは速いのです。
すぐさま逃げようとするウサギの後ろについて、両耳を掴んでボソッと、
「ごめんなさい」
そう言って、首に鉈の刃を当てました。
ウサギは力尽きたのか、もう動くことはありませんでした。
「……ありがとう、そしてごめんね」
捕ったトリやウサギ、キツネの皮をはいで、羽はまとめて袋につめ、ウサギやキツネの皮はまとめて干しています。
そして、皮をはがれた動物達の内臓はというと、
「はいよ、ほんと、アンタは気楽だね〜」
ツキコは猫の頭をなでながら、土を持って木をさし、一輪の白い花をその木のそばに置いています。
「ありがとう、大事にいただきます」
猫の頭から手をどけて、一礼、手を合わせて、目を閉じ、最後にもう一度、
「ありがとう」
そうつぶやきました。
「さて、シズクも待ってるだろうし、他のみんなもそろそろ帰るでしょ。アタシたちも帰るよ」
荷を背負い、猫を引き連れて、ツキコは我が家に向かいます。
「ヒノ、まだやってるかな?」
ヒノが行ったであろう湖は山をもう少し登ったところにあり、ツキコはそちらに足を向けようとして、
「下準備もあるし、帰るかな」
再び、家に足を向けるのでした。
〜洞窟内〜
「……」
見回し、何もないことを確認し、サトルはスコップ片手に歩き回っています。
「(どこを掘っても、今日はダメそう……)」
片方の肩に背負った籠には、キノコや木の実など、食べられるものを拾って入れています。
ついでに拾っているはずなのに、サトルは目当てのものをまだ見つけられていません。
「(キノコはこんなに見つかるのに……、採掘場所は少しも見つからないや)」
化石を探して洞窟の中をさまよっているはずなのに、見つかるのは食べるものばかり。
シズクとしてはそれでいいのだろうが、サトルにとっては悔しくてならないようだ。
「(うん、見つけるまで帰らない)」
そう心に決めてまた歩き回るのだが、やはり何か見つかるような気配はない。
その間にも籠の中はどんどんと食べられるものが増えていき、とうとう籠の中は様々な大きさのキノコでいっぱいになりました。
「(……どうしよ? けっこう時間、たった?)」
薄暗い洞窟の中にいるため、時間感覚の分からないサトルは、首を傾げて少し考えてから、
「(今日だし、もういいかな。また明日、来ればいいや)」
最初に心に決めたことはあっさりとひっくり返り、サトルは踵を返して、元きた道を戻っていきます。
「(珍しい石、拾えたしいっか)」
発掘はできなかったものの、ほのかに赤く光る石を拾ったサトルは、意外と満足したのか表情は嬉しそうです。
大量のキノコと野草類をカゴにいっぱいにして、サトルは家に帰っていく。
実は散策を始めてさほどたっていないのだった。
しかし、帰るときほど何かあるのだろうか、
「(あっ、ここに何かあるかも)」
背中のしゃべるに手を伸ばして、サトルは腰をおろしてしまった。
帰るという予定はどこへやら、サトルは熱心に掘り始めてしまいました。
「(もうちょっと、もうちょっと……)」
すっかり熱の入ったサトルが掘り当てたものを手に家路に付くのは、もう少し先の話でしょうか。
続く・・・