〜2つ隣の山〜
山は連なり広がり、大いなる山脈を形成しています。
山が違えば、なるものも少しずつ違うのだろうか、ヨウスケははるばる山を2つ越えてきていました。
「ふ〜、けっこう歩いたな」
切り株に腰を下ろして、水筒に口をつけながら、一息つきました。
そこは果樹園のように整備されたわけでもないはずなのに、一面にブドウがなっています。
青いもの、色づき始めたもの、様々になっています。
「久しぶりに来たけれど、どうしてこうも良い匂いがするんだろう」
周りには果物(ブドウ)ばかり、大きく息を吸い込んでみると、ほのかに甘いブドウの香りがします。
ヨウスケはこの場所に来るために、わざわざ山を2つも越えてきたのでした。
「今年もいい感じになってる、きっと美味しいだろうな」
手にとって実をもごうとして、いったん手を止めて、
「ふふ、やっぱりみんなで一緒に食べたほうがもっと美味しいかな」
手持ちの籠にキレイなブドウを選んで、ついばまれているブドウには手をつけずに。
「大丈夫だよ、君たちのエサを根こそぎ持って行こうってワケじゃないんだから。そう睨むなって」
人差し指と親指を組んで、実を親指で弾いてやると、カラスが飛んできた実をくわえて飛んでいってしまいました。
「まったく、現金なんだから」
ため息まじりにそう言いながら、ヨウスケはブドウを選別していく。
そのヨウスケの周りには鳥が集まりだして、肩に止まる鳥、カゴに足を下ろして捕ろうとする鳥、ヨウスケが取ろうとしたブドウにくちばしをつける鳥。
「おいおい、ジャマしないでくれよ?」
ヨウスケも強く言うことはできないのか、文句は言うが邪険に扱うようなことはありません。
それもそのはず、このブドウ畑は様々な鳥が根城としていて、鳥達の縄張りの中なのですから。
他者の縄張りの中では大人しく、それはヨウスケも理解しているのでした。
「ほら、もう行くから、そんなに睨むなって」
鳥達に邪険に扱われながらも、ヨウスケはブドウをはじめとした果物を手に、家路についていきました。
〜湖〜
ヒノは、湖の湖畔で竿の糸を垂らしながら、本にもを落としています。
「……ふふ」
よっぽど集中しているのか、本の中の字を追いながらページをめくり、また文字を目で追っていきます。
そして、竿が引いていることにも気付きません。
「……」
ぱしゃ、そんな音とともに、竿は湖の中に沈んでいきました。
「……あっ」
竿が湖の中に吸い込まれていく音が耳に入り、ようやく事態に気づきました。
「あ〜あ、またか〜」
言葉に誤りなどありません、本日3度目の竿が湖の中に吸い込まれる現象です。
しかしそれでも、横によけた網の中には魚が泳いでいます。
「また、作らないと……」
そばに置いている木の枝を手に取り、蔦の葉を結んで、草の先にとがった針を使って虫を通しエサにして、新たな竿を作りました。
虫をつけるための針以外は全て現地調達、材料費がかからないため、竿に対する執着心がないため、竿がすぐに湖の中に吸い込まれていくのかもしれません。
「……」
また本に目を落としながら、糸(代わりに蔦)が引くのを待つ。
ヒノが持ってきたのは、大量の本と、エサをつけるための針。
魚を釣るよりも、本を読むために外に出てきたようですが、きちんと魚も捕っています。
それからしばらく、ヒノは本とにらめこしながら釣りを続けました。
人数分が釣れたころには、竿はさらに2本、湖に吸い込まれて、それでも竿用の枝は残っているところを見ると、ヒノはどれだけ湖の中にあげるつもりだったのだろうか。
「うん、これだけあれば、大丈夫……」
そこからヒノは、本を入れたカバンの中からナイフを取り出し順番に捌いていきます。
大きくない魚のため、内臓を取り出しそこからひもを通して縛っていき、ひとまとめにしてからヒノは家路についた。
湖に反射している太陽は、少し赤らみ始めていました。
続く・・・