ことりさんの憂鬱 〜1話〜

竜宮たつき


 太陽がてっぺんに来る少し前の教室では、退屈な古典の授業が展開されていた。
 もちろん、夢の世界に旅立っている生徒も少なくはない。
 樹(いつき)晃一(こういち)もまた、眠気と戦いながらふと外に目をやると、教室から見える大きな桜の樹の下では、クラスメイトの一人である羽山ことりがいつものようにお昼寝中だった。
 晃一が外を見ているのに気づいた教師は、一度外を見てから眉をひそめて、
「おい、樹! いつもの仕事だ、羽山を呼んで来い」
 そう言って、親指を校庭のほうに向けた。
 起きている生徒のうち数人は外を見たが、それだけで、いつものことだと誰もが納得していて、何か言う生徒もいない。
「はい」
 晃一はいつものように苦笑混じりに、そう答えるしかなかった。
 すべてはいつも通り、平凡な日常のひとかけらに過ぎなかった。

 この三島高校で校長の次に有名な人物、それが羽山(はやま)ことりだった。
 色白で均整の取れた顔立ち、あまり変わることのない表情のおかげで、フランス人形みたいだともてはやされた。
 色素が薄く長いウェーブのかかった亜麻色の髪は、誰が見ても一発で羽山ことりのものだと分かるほどの存在があった。
 身長は140センチに届いていないという噂が出るほど低いが、実際は141センチらしく噂も決してデマでは無かった。
 授業は半分ぐらいしか出ないし、出ても眠っていることがほとんどだった。そんな状況にもかかわらず、成績は総合で上位をキープしており、そのため先生もあまりきつくは言えないらしい。
 さらにことりは授業に出ない時は、たいてい校庭の隅にある大きな桜の樹に寄りかかって眠っていた。
 そんな目立つ見た目と目立つ行動のおかげで、羽山ことりは学内でも屈指の有名人となっていた。

「ことり……ことり、先生が呼んでるよ」
「……んんん!」
 晃一がことりの肩をゆすって起こそうとしたが、その手は軽く払われた。
「ちょっ、ことり、起きて、もう授業始まってるよ」
 晃一は手を払われたことを気にする様子も無く、ことりの肩をゆすり続けると、
「……ん……んう? 樹くん?……はよう……」
 寝ぼけたまま、半分開いた目をまた閉じようとしていた。
「ちょっ! 寝ちゃダメだって、授業に行かなきゃ」
 必死の晃一の訴えに対してことりは一言、
「……ヤ」
 たったそれだけ言ってことりは、晃一とは逆の方に顔を向けてしまった。
 正攻法では落ちないとあきらめた晃一は、次にもので釣る作戦に出た。
「この授業が終わったら、お昼ご飯だからがんばろうよ?」
 晃一がたずねるとことりはゆっくりと左手を差し出した、これもよくあることだ。
「これは何の手?」
 晃一はその手の意味をもちろん理解しているが、あえて聞いてみた。
 そんな晃一の問いに、首を向けたことりは、
「………いつもの……」
 としか言わなかったが、晃一にはそれで十分に通じた。
「分かったよ、そのかわり教室に帰ってくれる?」
 コクコクとうなずくことりを見ながら晃一は、ポケットの中からキャンディーを一つ取り出して、左手においてあげた。
 ニコニコ笑顔で受け取り、ことりはそのキャンディーをしばらく見つめてからポケットにしまった。
「じゃあ、行こっか」
 そう言って立ち上がってから、ことりに手を貸して立ち上がらせ、まだ授業中の教室に向かったが、授業時間はもうあと十分もなかった。

 続く・・・

  あとがき

 どうも、オリジナルの掲載は久しぶりな竜宮たつきです。
 タイトルはまあ、某ハ○ヒのばったもんですけど、そこは別に気にしないでくださいwww
 これも昔、クラブ冊子のほうに掲載したものではありますが、まったく別物と言ってもいいぐらい加筆修正を加えてあります。
 冊子だとページ数やページ調整のためにできないことがあったりするので、その辺を書き足したりしています。
 なので、初めて読む人も読んだことがある人も楽しめる一本だと思います。
 待ったりゆったりと読んでいただければと思います。
 それでは今回はこれぐらいにしておきたいと思います。
 ではでは、竜宮たつきでした。
 


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