ことりさんの憂鬱 〜3話〜

竜宮たつき


「あれ、いない?」
 いつものように晃一は授業にいないことりを探しに桜の樹のところにきたのだが、この日はことりの姿がいつもの場所には見当たらなかった。
「う〜ん、ここじゃなかったら……」
 晃一は次なる候補地に足を向けた。

「ここにもいないか〜」
 この日ははいつもより暖かかったので屋上だろうと思い来た晃一だったが、ここにもことりの姿を見つけることはできなかった。
 そんな晃一の耳に「キーン・コーン・カーン・コーン」という授業開始のチャイムの音が届いた。
「あ〜、とりあえず教室に帰るか」
 ことり捜索を断念した晃一は教室に足を向けた。

「…………」
 晃一は無言のまま自分の席に向かった。
 なんとか先生より早く教室に帰って扉を開けた晃一が見たものは、晃一の席に突っ伏して眠っていることりの姿だった。
「ことり、授業始まったよ」
 肩をたたいてみると、小鳥はもぞもぞと動きながら、
「んー、あと……、ごふん………」
「定番はいいから。ほら、先生も来たよ」
 晃一は起きようとしないことりを、少し強めに小突いてみた。
「…………いつき、くん?」
 目をかすかに開けて、ことりは一言つぶやいた。
 まだ寝ぼけているのか、目はトロンとしてうつろだった。
「そうだよ、そしてそこは僕の席だから、ことりも自分の席に戻ってね」
 僕の言葉に対して、ことりは首を傾げてから笑顔で、
「……コ・コ」
 といって、ことりは自分の太ももの上をポンポンと叩いた。
 そんなことりの行動に対して、周りの女の子たちからピンク色の悲鳴が上がった。
「キャーーー、ことりちゃん、積極的〜!」
「羽山が猛アタックしてんぞー!」
「樹君、ファイト〜」
「羨ましいぞー、樹ーーー!」
 もはや教室中の人間が晃一とことりの動きに注目している。
「いや、さすがにそれは、チョット……」
 ことりはじっと僕のほうを見て、もう一度太ももを叩いて、さらに両手を横に広げた、笑顔のままで。
 そんなことりに困り果てた晃一だったが、
「んん、おい、授業始めるぞ、全員座れー」
 咳払いする教師に対して助けられた。晃一はそう思ったのだが、
「あと、樹! 羽山みたいなかわいい子に迫られたんだったら、答えんといかんだろ〜」
 先生の一言に、教室は大きな笑いの渦に包まれた。
 まだ若い先生にとっては何よりのカッコウのネタでしかなかったようだった。

 続く・・・


 あとがき

 というわけで、今回も無事に掲載することができました、館長の竜宮たつきです。
 金曜日=ナナイロ図書館更新の日、そう思われるようにがんばって生きたいと思います。
 今回は出会いから、なんでもない日々の一コマと、長さがかなり違う2話になってしまいました。
 ほんとうはもう少し短めにしたかったんですけれど、あれ以上切ると中途半端になりそうだったので、そのままあげておきました。
 本の形で見る分にはそこまで感じないんですけど、やっぱりパソコンの画面で見ると長く感じてしまいますね。
 2話が2500字、3話が900字ぐらいですね。
 晃一とことりの関係は兄妹といった感じで、だから書いていて楽しかった記憶があります。
 こういう話を入れたい、でもああいう話も入れたい、でもスペースが……
 冊子用に書いていたのでそうとう苦戦したのも、それはそれで楽しかったですね。
 次も来週、もしかしたらもう少し早くなるかもしれませんが、のんびり待っていただけるとありがたいです。
 では、今回はこの辺にしておきましょう、館長の竜宮たつきでした。
 



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