ことりさんの憂鬱 〜4話〜

竜宮たつき


「なあ、樹はさ、羽山のことをどう思ってんの?」
 昼休憩中、ことりがご飯を食べに行っている間に、岩城(いわき)(友人+バカ)が晃一にそんな質問を投げかけた。
「……」
「おい! 無視すんじゃねえよ、ちゃんと羽山のいない今聞いてるんだから答えろよ」
(ちっ! スルーしそこねた)
 心の中で舌打ちをしながら、晃一は仕方ないという気持ちいっぱいに口を開いた。
「なんでそんなこと、いちいち答えなきゃいけないんだ?」
「そりゃ、このクラス全員の最大の興味だからだよ!」
 岩城はコブシを握って、一人ハイテンションにわめいていた。
「考えてみろ! 同じクラスのやつが同じクラスの女の子、しかも学園でもトップクラスの美少女にひざ抱っことハグを要求された!」
 岩城はいすに片足を乗せて、もはや自分の世界にどっぷり浸かっている。
「誰だって、その答えを知りたいだろう! なあ、樹?」
 さっきの寝ぼけたことりの行動のせいで晃一は妙な質問攻めにあっていた。
「そうだそうだ!」
「ちゃんと答えやがれー!」
 岩城の妙なテンションに触発されてか、周りにいたほかの男子たちも一緒になって騒ぎだした。
(ホント、誰でもいいから助けてほしい)
 晃一は藁にもすがる思いで顔も知らないどこかの神様に祈った。
 祈りつつ、どうにか自力で話題を変えようとした。
「いや、ちょっ、待て、ひとまず落ちつ――」
「なれると思うかぁぁァぁァァぁぁ!」
 岩城は聞く耳を持たず叫び、さらにヒートアップした。晃一の一言はむしろ火に油を注ぐような格好になったようだった。
 ごもっともだが納得はいかない晃一はどう逃げようかと悩んでいると、
「……ん? 何――おぉ、羽山さんか。丁度いいところに」
 ヒートアップしていく岩城を落ち着かせたのはことりだった。
 ことりは一瞬だけ晃一のほうを見てから、
「……樹くんは、あたしのお気に入り……。いじめていいのも、あたしだけ……。岩城くんでも……、ダメ!」
 人差し指をクロスにして岩城を見上げていることりの一言に、教室にいたほぼ全員が絶句した。
 晃一は助かったと思いながらも、
(ことりに変なイメージがつかなきゃいいけど……)
 とんでもないことを言い放ったことりを心配していた。
「あ〜、なんて言うか、悪かったな、樹」
 騒ぎの中心にいた岩城は、晃一の肩をポンポンと叩いて励まそうとした。
 騒いでいた皆が哀れみの目で、晃一のほうを見ている。
「ことり、あんな言い方したから、みんな引いちゃってるじゃないか」
 ことりのほうに近づいて、小声で晃一は声をかけた。
「助かった……、でしょ?」
 そんなことりの言葉に晃一は恐縮するばかりだったが、
「うん、まあ、それは……」
 晃一はそう返すしかなかった。僕の言葉に対して、ことりは満面の笑顔だ。
「………貸し、一つ♪」
 晃一はため息まじりに、笑顔のことりの掌にイチゴ味のキャンディーを一つ落とした。

 続く・・・



5話を読みにいく

トップページに戻る

書棚に戻る

掲示板へ行く

inserted by FC2 system