晃一は待ち合わせの場所にしていた学校の桜の樹の下に三十分前についた。
しかし三十分前にも関わらずことりは、すでに待ち合わせに指定した学校の桜の樹の下にいた。
しかも気持ちよさそうに眠息をたてながら。
晃一はさっそく予定を変えて、ひとまずその場を離れた。
「――くん、……樹くん」
「ん? ……あ〜、ことり? ごめんごめん、寝ちゃった」
結局、晃一がお昼ご飯を調達して戻っても、ことりはまだ眠っていたままだった。
そのため晃一はことりの横に座ったのだが、春の日差しに負けてそのまま眠ってしまった。
「珍しい、ね……。いつもと、反対……」
ことりは笑いながら、僕の肩をゆすり続けている。
「ありがとう、もう目も覚めたから大丈夫だよ」
晃一の言葉を聞いてもことりは手を止めることなくゆすり続けた。
「もういいから、酔っちゃうから」
「……それ、……は?」
手を止めたことりは、僕が抱えていた袋を指さした。
「これはお昼ご飯だよ、時間も時間だし食べに行くより、ここで食べようかなと思ってね。天気もいいし」
晃一はことりにそう答えながら、僕は袋からサンドウィッチを一つ取り出して、ことりに手渡した。
「……フルーツサンド、は?」
フルーツサンドはことりの大好物の一つだが、それはデザートであって、お昼ご飯にはなりにくい。
「フルーツサンドは後、ハムレタスとタマゴ、どっちがいい?」
ことりは自分が持っているハムレタスを開け始めた。
「じゃあ、食べ終わったことだし、お買い物に行こうっか……、ことり?」
「――ふぇっ! ……行く、の?」
お腹いっぱいになったせいか、目を閉じそうになったことりに声をかけた。
「もう少しお昼寝する?」
ことりは首を横に振りながら、
「大丈夫……。もう、いっぱい……、寝た、から」
「じゃあ、行こうか」
そう言って晃一は立ち上がり、ことりに手を貸した。
ことりが手をとったので、晃一は軽く引っ張った。
やっぱりことりは軽かった、まさしく羽根みたいだと思った晃一は、
「軽いな〜、もっと食べないと大きくならないよ」
「………」
一瞬だけ晃一の方をを睨んだことりは、そのまま反対の方向を向いてしまった。
それからしばらく、晃一がいくら話しかけてもことりはひたすら無視し続けた。
晃一はこのとき、ことりが身長のことを気にしていたことをすっかり忘れていた。
(ことりに小さいという言葉は禁句だったんだっけ)
滅多には言わないことにしようと、晃一は心に誓った。
続く・・・