ことりさんの憂鬱 〜7話〜

竜宮たつき


 目的地に向かおうという話にはなったがことりの、
「日差し、強いから……、ぼうしが、ほしい」
 という一言によって、まずことりの家に向かうことになった。
 晃一はことりの家までは何度か来たことがあったので、道案内無しでも行くことはできた。もちろん、まだ中に入ったことはなかったが。
「ちょっと、待ってて」
 と言ってことりが家に入っていくと同時に、一人の男性が家から出てきた。
 ジーンズに長袖のシャツ、サンダルとラフな格好で出てきた差ほど背丈の高くない男性は、
「やあ、こんにちは、樹君かな?」
 問われた樹は簡潔に、
「はい……そうです」
「私のことはことりから聞いてるかな?」
 男の人は笑いながら晃一に聞いた。その男性の問いに対して、
「いいえ、お兄さんですか?」
 晃一は分からないまま、感じた通りにそう答えた。
「はは、光栄だね、私はそんなに若く見えるかい? 一応は子持ちなんだけど」
「………もしかして、お父さんですか?」
 どう見たって二十代にしか見えない男性は、一瞬だけ真面目な顔をして、
「ことりの父、羽山(はやま)千秋(ちあき)です」
 千秋と名乗ったことりの父は、晃一に近づいて握手を求めるように手を差し出した。
 晃一がその手を握ろうと一歩前に進んだところで、
「……ちぃ、何してるの?」
 家から出てきたことりが自分の父親に声をかけた。
「……今日、仕事は?」
「中断したよ、せっかくことりが珍しくお友達を連れてきたんだから、挨拶ぐらいしておかないとと思ってね」
 白いぼうしを持って父親の横に並んだことりと、そのお父さん。
(やっぱり親子なんだ、あんまり身長が変わらないし目鼻立ちもそっくりだ)
 親子のほほえましい光景を目を細めて眺めていた晃一に、千秋が声をかけた。
「ちなみに樹君、今晩の食事の予定はあるかな?」
「あっ……いいえ、今のところは家で食べようと思ってます」
 そんな晃一の回答に、ことりのお父さんはあごに手をあてて、
「じゃあ今日、ことりの相手をしてもらうお礼に、今晩は家でごちそうしよう、どうかな?ことりの暖かい手料理をゆっくり食べたくはないかな?」
「よろこんで行かせてもらいます! ことりもいい?」
 晃一は即決で了承し、ことりのほうを見た。
「いいよ……。何、食べたい?」
 問いかけたことりに千秋が口をはさんだ。
「昨日のあれがあるだろう? 大成功だったから今晩みんなで食べようじゃないか」
「分かった……じゃあ、買うものもないね」
 晃一だけが一人、何のことだか分からないような顔をしていると、
「帰ってくるまでの秘密だよ、樹君」
(笑ったこの人はとても子持ちには見えない)
 晃一は千秋の屈託の無い笑顔を見て、素直にそう思った。

 続く・・・


 あとがき

 というわけで、今回も金曜に更新しました、館長の竜宮たつきです。
 6、7話はことりと晃一の仲睦まじさのみを伝えるような話になってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
 晃一はとうとうことりのお父上とご対面、後任の仲っぽくなりまして、物語はいよいよ佳境に入っていきます。
 こういう書き方をすると、一悶着あるのかとも思われるでしょうが、私の気が変わらない限りはそれほど大きな事は起こりません。
 2人のまったりのんびりとした雰囲気では、起こりそうなことも起こらなさそうですしね(笑)
 桜の散る頃には終わるかとも思いましたが、どうやら間に合いそうにありませんね。
 桜がフライングしたのが原因であり、私のせいではありません(←オイ!
 ま、次も金曜に更新するとは思いますので、楽しみにしていただけると幸いです。
 それでは、館長の竜宮たつきでした。



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