ことりさんの憂鬱 〜8話〜

竜宮たつき


 自転車の後ろにことりを乗せて、目的地のショッピングセンターに向かう途中、ことりが晃一の服を引っ張った。
「どうしたの? 何か落とした?」
 晃一が自転車のブレーキをかけながら聞くと、ことりは通り過ぎた路地を指差して、
「何か、あった」
 とだけ言って自転車を飛び降り、来た道を戻って行った。
「ちょっ! まったく」
 晃一は首をかしげながらも、とりあえずついて行くと、
「お! いらっしゃい、お嬢ちゃん、彼氏連れかい?」
 日当たりのあまりよくない路地裏で、三十手前ぐらいのお兄さんが露店を開いていた。
「いや、別に彼氏ってわけじゃ」
 晃一が言葉を返すと、露店のお兄さんは目の前の二人を見比べて、
「……年の離れた妹?」
 仲は良さそうだけど、付き合っていないという答え、二人の身長差を見て判断した答えだったが、
「………同じ年、十七歳。……どっちも」
 即座にことりが反論した。
 若干不機嫌になったことりの変化を読み取ったのかお兄さんは、
「そっか、ごめんね、気に障ったなら謝るよ。お詫びと言ってはなんだけど、一つ買ってくれたらもう一つ好きなのをプレゼントしちゃおう!」
 そんなお兄さんの態度に、二人は彼の商売魂を感じた。
(でも一つ買ってもう一つくれるのなら、二人だし丁度いいか)
 そう思った晃一はことりに、
「ことり、好きなの選んでいいよ」
 そんな晃一の言葉に反応を示したのは、ことりではなく商売人のお兄さんのほうだった。
「ん、ことりちゃんって言うの? かわいいね、だったら丁度いいのがあるよ」
 と言って、お兄さんが並んでいるいろいろな商品の中から、ことりに渡したのは指輪だった。
「羽根の模様のレリーフを付けてみたんだけど、どうかな、ことりさん?」
 銀の羽根がついた、しかし大きくはないさりげない雰囲気のある指輪だった。
「うん……。すごく、いい……。じゃあ、樹くんのは?」
「いつきくん? 樹木のいつき? なら君にもいいものがあるよ……」
 そう言いながら、お兄さんは一つを手にとって、晃一に手渡した。
「イメージは月桂冠(げっけいかん)なんだ、それ」
 こちらは銀の細い線が絡み合ったような、銀の指輪だった。
「サイズは大丈夫?」
 そう言われて、二人で指輪をはめてみる、晃一は大丈夫だが、
「抜けちゃう……」
 ことりは中指に指輪をはめてから、外した。ことりの指の細さもまた規定外だったようだ。
「う〜〜ん……、そうだ! 二人とも、もう一つずつ同じ指輪を買わないかい?」
「「………」」
 お兄さんの思いつきと意図がいまいち理解できずに考え込む二人に、
「ここに丁度二本、シルバーのチェーンがある、そしてこれを、こうすると……」
 お兄さんはそう言いながら二つの羽根と月桂冠の指輪をチェーンに通して、
「鳥と樹は常に一緒にいるものだよね」
 ニコッと笑ってお兄さんが二人に見せたのは、ネックレス用のチェーンに通された先ほどの二つの指輪だった。
「……常に、一緒……?」
 ことりのそんな言葉を少し赤くなりながら呟いた。
「どうだい? 指輪のサイズが合わなかったし、一個分の値段で四個あげちゃおう、通してある二本のチェーンのお代もサービスするよ」
 商売人の笑顔で、お兄さんはニコニコとこちら、主にことりのほうを見ている。
「ありがとうございます、もちろん買わせていただきます」
 お兄さんは僕の言葉を聞いて、さっきよりもきれいな笑顔で僕のほうを見て、
「毎度あり〜〜」
 晃一は代金と交換に二本のチェーンと四つの指輪を受けとった。

 指輪を受け取り、ショッピングセンターに行こうとした晃一に対してことりは、
「……帰ろ?」
「買い物は? 今の指輪は安かったからまだ大丈夫だよ?」
 晃一の言葉に対して、ことりは首を横に振って、
「もう……、買って、もらったから」
 そう言って晃一に指輪を見せた。
「じゃあもうことりの家に行くの?」
 コクコクと頷いて、ことりは晃一の自転車に跳び乗った。
「う〜ん、じゃあ帰ろっか」
「……れっつ、ごー」
 ことりは上々気分で拳を突き出した。

  続く・・・


 あとがき

 というわけでこんばんわ、館長の竜宮たつきです。
 今回は1話だけですが、掲載は来週で終わりそうです。
 今回はお買い物ということで、樹君とことりさんはショッピングへ。
 自転車の二人乗りはいけないことなんですけど、学生ですし仕方ないことなんです。
 良いものゲットで上機嫌のことりさんと樹君は、帰ってご飯ですね。
 ことりさんの自信満々のお料理とは何でしょうか?
 ものすごく簡単で、私でも作れるようなものなんですけどね。
 ヒントは一晩おいておけるもの、簡単に作れるものです。
 というわけで、次回で多分最終回です。
 気が向いて書きかえない限りは……
 というわけで今回はこれぐらいにしておきましょう、竜宮たつきでした。


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