君の背中を追う 2話

竜宮たつき


「あんまりよくないかもね、今日は軽いランニングとストレッチだけにしておきなさい。痛いのなら無理しないほうがいい」
 タイムトライアルの次の日、ひざに違和感があり、顧問の先生に相談すると練習を止められた。痛くはないけれど、硬さが残るひざを憂いた先生は、オレの練習にストップをかけた。
 練習はみんなとは別で、ゆっくりと一歩一歩確かめるように足を前に運んでいく。
 学校の周りを他の部員とは離れて、一人でゆっくりとジョギングをしながら、昨日の自分の走りを思い出した。
―前半は抑え気味、後半はペースを上げながら体力をぎりぎりまで使い切って―
 昨日の気持ち良さを思い出すと、ゆっくりに抑えていたペースが上がってしまった。
 ひざの力が抜けるような変な感覚がある。
―やっぱり昨日の疲れかな―
 前に運ぶ足は鈍く重い。
―昨日は良かったけど、結局村上には簡単に追いつかれたし、背中痛かったし……。どうして村上はあんなに速いんだろう?―
 その村上はグランドで長距離のグループの中で、練習の最中だった。
―アイツ、やっぱすげぇわ―
 つい目がいってしまうアイツこと村上は、長距離の一番ペースの速いグループで、先輩たちや男子に交じって一緒に走っている。
 オレはまだ一番早いグループにはついていくのがやっとで、途中で遅れることもあるのに、村上の表情には表情には余裕がある。
―今週末もまた、昨日と同じ場所でタイムトライアルやるんだっけ。アイツが追いついてきたら、ついていってみようか―
 いつも一キロを越えたころに追いついてくる村上は、そのまま簡単にオレを追い抜いていく。
 三十秒遅くスタートする女子で追いついてくるのは村上ぐらいのもんだ。他の子たちには追いつかれない程度のタイムは出している。
 それだけ村上の速さは尋常ではないということだろう。
 そんな村上についていくというのは、勝つというより村上のいる位置を体感すれば、何か得るものはあるかもしれないと思ったからだった。

 が、村上についていけるかも、なんて考えは、お菓子の家よりより甘ったるく、脆いものだった。おっ、オレ、うまいこと言ったかもしれない。
 まあそんなことは置いておいて、先週と同じように村上は、一キロの少し前に追いついてきたので、ペースを少し変えて、村上の背中についた。
 足音が離れないことに気づいたのか、村上は少しだけ後ろを見て、ニカッと笑っていきなりペースを上げた。
 急激な変化に驚いたものの、まだまだ序盤で体力に余裕があったからついていくことはできた。
 いきなり変わった村上のペースは、すぐに前を走る村上が元に戻した。
 その後も村上のペースは、上がったり下がったりを繰返してくれた。
 ペースの変化はどんどんオレの体力を奪っていき、二キロ地点を過ぎたあたりの小さな下り坂で、再びペースの上がった村上についていけなくなった。
―くっそー、やられた―
 それ以上思うことなんてなかった。
 走りなれたこのコースのことは大体分かる。もちろん、村上もそれは同じだろう。だからこそ、あの坂で勝負をかけたのだろう。
 おいて行かれたオレはあと一キロ近くあるのに、足が重く、肺が痛く、息も荒かった。
 後ろからどんどん抜かれていくのに、オレは前に進むことに一杯一杯でそれどころではなかった。
 結局、この日のレースは過去最悪のものとなり、ラストスパートでペースを上げることもできないままゴールを踏んだ。
 そしてゴールラインを超えた瞬間、足が絡まってこけた。
 足にまったく力が入らなかった。
「おい、シュン? どうした? 泣くほど悔しいのか?」
 顔面からこけたオレに声を掛けたのはやっぱり村上だった。
「うっせ……、お前のせいだ、あんな、走り方、されたら、ついて、いけるか!」
 息も絶え絶えに、立ち上がりながら言い返すと、村上は笑いながら、
「いや〜、シュンがついてきたのにビックリして、楽しくなっちゃって。つい遊んじゃった、テヘッ♪」
 なんて頭にグーを当てている。かわいいが、それ以上に憎たらしい。
 村上にとって、併走しようとしたオレは面白いおもちゃだったらしい。
「……ったく、疲れた、お前のせいでタイム最悪だろうし」
 まだタイムは聞いていないが、聞いたこともないようなタイムになるだろう。
「大丈夫だって、あれについてこられるようになったら、シュンも一人前さ!」
 親指を立てて笑顔で言い切った。
 そんな村上に返す言葉もないまま、ため息をつきながら、
「……一人前って何だよ?わけわかんね〜よ」
 結果がよっぽどショックなのか、ろくな返しもできないまま、場所を離れようとしたが、
「な〜に、柔軟なら手伝ってあげるわよ、疲れたでしょ?」
「いや、いいわ、それより後輩に付き合ってやれよ」
 村上の顔を見ないまま、そうとだけ言って、なんとか立ち上がってその場を離れた。
 今日のレースで明確に見えた村上との差は、目がかすむほどの長距離だった。

 ・・・続く

あとがき

 みなさん、一週間ぶりになりました、竜宮たつきです。
 ちょうど季節に追いついた感じになりました、今作品は来週には残りの全話をあげる予定になっております。
 あまりのんびりしていると季節が変わってしまうので、ね?
 こう書いておいたらやらなければいけなくなるでしょうから、がんばります。
 今日やるべきなんですけど、就職活動に行ってきてしんどいのでご勘弁ください。
 来週はがんばるので、もう少し気長に待っていてください。
 それでは、また会える日を楽しみにしております。
 それでは、竜宮たつきでした。



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