「調子、上がんね〜」
冬休みも終わり、三学期も中盤に差し掛かった。
あの最低のレースから一ヶ月以上たったが、オレのスランプは治らないままだった。
あのレース以来、調子は下降するばかりで、ベストタイムを更新することもできず、やる気も出にくく、なんだか体がだるい様な感じがずっと続いている。
この前三千メートルのタイムで、村上と三分以上も差をつけられたときは、本気で泣きたくなった。聞いたオレが悪いのだが、聞かされたときは愕然とした。
「そんな日もあるさ。ファイト、シュン!」
村上にはそんなことを言われるまでもなく、頑張ってはいるが調子は下がるばかりだった。
今日は体育の授業も三千メートル走ということで、タイムを計ることになった。
結果は最低で、十四分後半というタイムは、ベストには程遠かった。
さすがに一ヶ月以上こんな状態が続くと泣きたくなる。
顧問の先生が体育の担当なので、もちろんオレの超スランプ状態は知っており、
「スランプは誰にでもあるものだから、気にしすぎないほうがいいぞ?」
そう言ってくれるものの、今のオレにはなんの励ましにもならない。
一方の村上は十分の真ん中ほど、ベストではなかったらしいが、二学年男女のトータルで二位、一位は同じく陸上部の長距離の同級生でそれも十秒もないタイム差で、トップ十での女子は村上だけと、オレとは正反対のような好成績だった。
「一緒の授業だったら引っぱってあげるのに〜」
オレの教室に乗り込んできた村上に、結果を聞かれた後に言われたことだ。
アイツのペースについていけないのは分かっている。
「無理に決まってんだろ、お前の尋常じゃないペースになんてついていけるかよ」
そう返したとき、村上は真面目な顔をして、
「無理じゃないよ、シュンはがんばってんじゃん」
いつもなら笑顔で、背中を叩きながら言うようなセリフを真顔で言われてビックリしたけれど、
「がんばって結果がでりゃ幸せなんだけどな、お前みたいに」
俺の口からは心ないセリフしか出てこない。
しかし村上は、
「がんばってよ。シュンがまた横を走ってくれるの、すごく楽しみにしてるんだから」
そこまで言って自分の教室に帰ってしまった。
結局その日は、顧問の先生に言って休みをもらって一日ゆっくり休むことにした。
教室で友人と話しながらも、気になるグラウンドでは、今日もみんながいつものように走っていた。
「今日は休みなんだろ? そろそろ帰ろうぜ? 寒いし」
一緒に話していた友人に言われたが、
「いや、もうしばらく残ってくわ、図書館も行きたいから、先に帰っててもいいよ?」
言いながら視線を金森の方に向けると、そいつはニヤニヤ笑いながら、
「村上か? ご執心だね〜、叶わぬ恋に……」
祈るように手を組んだポーズで、遠くを見るように視線を斜め上に向けたバカな友人を殴って、
「そんなんじゃねえよ、誰があんな成長途上を……」
「必死に否定しようとするなんて、図星か〜?」
もはや顔が、笑いをこらえるように緩んでいるバカをもう一度殴ろうとしたが、
「カッカッカ、二度も殴られてたまるか、バイビ〜〜〜」
教室から走り去った金森の背中を見ながら、
「は〜、村上以外にもカワイイ子はいくらでも……そう、三年の井出さんとか」
―結局名前を出すのにしばらくかかるあたり、金森に言われたことも間違いではないのかも……―
ブンブンブン、と頭を横に振りながら、自分のバカな思い込みを消す努力をした。
―アイツは敵だ、敵。ライバルだ。決して好き嫌いなんて事を言うような相手ではない―
あのバカの一言のせいで、村上を必要以上に意識してしまい、その日は見学を止めて帰ることにした。
―明日になったら、普通に戻るさ―
続く・・・