「理事長、よろしいのですか?」
「ん〜……なにが?」
「さっきの新聞部の企画ですよ」
「ん〜〜〜」
「理事長?」
「ん、なに?」
「まずはそのゲーム機を置きなさい!」
「あとちょっとだから〜」
「……リコ?」
「は〜い、分かったよ、ナナチー」
「ナナチーはやめてもらえませんか?」
「懐かしいし、いいじゃん。ね、ナナチー?」
「確かにそうですが……」
「それに、ナナチーだってリコって呼んだし。お互い様じゃない?」
「そう言われてしまうとそうですが……」
「じゃあ、いいよね?」
リコこと学園の理事長の梨子々と、ナナチーこと理事長付きの秘書の奈々緒は、新聞部の亜矢が持って企画の話し合いを始めようとしていた。
奈々緒は始めたいのだが、莉子々にその気がなく、携帯ゲーム機から目を放そうとしなかった。
「それにしても大丈夫なのですか? 現金なんて賞金にしてしまって?」
「あれ? リコは現金だなんて一言も言ってないよ? 金一封とは言ったけどね?」
「………しかし」
「金一封を目当てにしている子はいても、現金を目当てにしている子はいないんだよ?」
「なんという、ひねくれた発言なんでしょうね?」
「ふふ、たまたま金一封の中身が現金だとしても、それはたまたまだからね」
この2人はかつて、この学園で生徒会長と風紀議会長の職を持っていた。
莉子々が生徒会長、奈々緒が風紀議会議長、学園の権力者として生徒自治の仕事をしてきた2人だった。
そして卒業後、梨子々は祖父が経営する会社の事務員に、奈々緒は大学卒業後同じく梨子々の祖父が経営する会社に就職することになった。
そんなある日、梨子々は祖父に命じられ新設の学園の理事長の職を任せられた。
命じられた梨子々はその相方、秘書として奈々緒を選び、若い2人が学園の中枢に入る今のような状況になった。
「まったく、昔からアナタは無茶をする。その片付けをするのは私や今の風紀議会議長の静さんですよ?」
「それが風紀議会のお仕事だもの、今も昔も」
「そう言われてしまえば返す言葉もありませんが……」
「集団の頂点にいるんだもの、それぐらいの面倒は仕方ないよね?」
「………」
「それに、面倒事が一か所に集まらないようにするために、生徒会と風紀議会、2つに同等の権力を与えているんだし」
「………そうですね」
「ずっと昔からそうだったんだもん。リコたちもそうだったでしょう?」
「……」
「ん? どうしたの、ナナチー?」
「いいえ、リコがそこまで考えていたということに驚いているだけで」
「ナナチー、リコだっていろいろ考えているよ?」
「何も考えていないようにしか見えなかったので……」
「今度、言葉の持つ重みについて話し合おっか?」
「ふふ、冗談ですよ♪」
「むぅ、そんなだから結婚できないんだよ〜」
「それはアナタも同じでしょう?」
「ぐっ!」
「私はまったく縁がないわけではありませんから、まだ仕事のほうが楽しいので」
「い、いいもんだ! 一生、ナナチーの後ろに引っ付いててやるんだから!」
「それはそれでいいかもしれないですね。遺産は相続してくれるんでしょう?」
「……黒いね?」
「……失言です」
梨子々はホホを膨らませ、奈々緒は膨らんだホホをつつきながら笑っている。
同じ年の2人のはずなのに、関係性はまるで親子か姉妹のようだった。
学園の自由さはこんな2人が頂点にいるからなのかもしれない。
『学園最高権力者』
続く・・・