「ほほう、ほほう、ふむふむふむ……、ワトソン君!」
「………」
「ワトソン君?」
「……」
「いまりちゃん?」
「は〜、なんでしょうか、佳代様?」
「これみよがしなため息だね。新聞部が面白いイベントをするんだそうだ」
「そうですか。さ、掃除を早く始めましょう」
「そのイベント、宝探は今日、今からなんだけど?」
「そうですか。そんなことよりお掃除が先ですよ?」
「豪華賞品が出るんだって、金一封とか……」
「さ、早く探しに行きましょう!」
部室棟の一角、ミステリー研究会の部室の中、部長の佳代といまりは、掃除を中断して新聞を広げていた。
態度のあからさまな変化に、佳代は薄く笑いながら新聞を広げた。
中央のページ、見開きの部分には大きな学園の地図と、ヒントとなる文章が書かれていた。
「新聞部出品『一番高いところ、一番低い場所』亜矢より
生徒会出品『勉強好きな貴女なら分かるはずよ?』美月より
理事長出品『私のチケットはあるべき場所に』梨子々より
顧問、天苗出品『普段は誰も見ないような所』天苗より」
この文章とともに学園の地図が載せられており、迷惑をかけてはいけないように範囲外の場所には×マークがつけられている。
そのため、学園中が範囲という割りには探す場所はさほど多くはなかった。
佳代の目当ては新聞部が出した広告の無料掲載権であり、金一封ではないのだがそこは伏せられた。
「とりあえず、ヒントは『一番高いところ、一番低い場所』だってさ。意味が分からないね?」
「日本の一番高いところでしょうか? 富士山の頂上ですかね?」
「……考える気ある? さすがにそれは無いよ、ワトソン君。探す範囲は学園内だよ?」
「ワトソン君ではありません。手伝ってあげませんよ?」
「分かったよ、いまりちゃん。それより他には?」
「学園内の高い建物といえば、本校舎と時計塔と、あとは体育棟と寮棟あたりですか」
「分かんないな〜、けっこう範囲外も多いから楽だと思ったんだけどな〜」
「一番高い建物は、たぶん時計塔ですけど……」
「じゃあ、一番低いとことって言うのは? 一番低い場所はどこだっけ?」
「………一番低い建物は多目的ホールですね。一階しかありませんし」
「でも、多目的ホールと時計塔じゃあ場所が違いすぎるよ?」
「ですよね〜」
「……地下とかってあったっけ?」
「そういえば……、時計塔には地下がありましたね。大時計の管理室でしたか?」
「そうだとしたら、簡単すぎるかな?」
「ですが、出題者が亜矢様ですし。なくはないのでは?」
「だね〜」
「やっぱり時計塔でしょうか? 体育棟はこの時間はクラブの子たちが多いですし」
「本校舎は広すぎて探しようがないし」
「寮棟は時計塔と比べるとそこまで高くないですし」
「そうね、よし! 時計塔に行きましょう!」
2人は部室を出て一路、時計塔に。
1階は実技室や生物室、調理室などの特殊教室があるため、その手のクラブが使用中で人が多いものの、二階や地下に入ってしまえば何もないため人はほとんどいない。
2人は地下に入って、周りを見渡したが、ほとんど何もない場所だった。
あるのは体育祭の小道具や文化祭で使う立て看板など、時計塔の地下は倉庫状態だった。
「さ〜、探しましょうか♪」
「何を探すんですか?」
「…………え〜っと、何だっけ?」
「聞かれても知りませんよ! 新聞は持ってきていますか?」
「あ〜、そっか……、白いチケットだって」
「白い紙なら二階の掲示板に貼ってありましたよ?」
「それだ!」
2人は急いで2階まで戻ったものの、まだそこには人はなく、壁に画鋲でとめられた白い紙があった。
「急ぐ必要はなかったみたいね」
「みたいですね。にしても2枚ありますけど、どうしましょう?」
「文芸部にでも売り付けましょうか? 代金はあっちの冊子での宣伝にでもしてもらって」
「はいっ!?」
「とりあえず、ジュンに連絡でもしましょう」
「……ちょっとそれはどうかと」
「大丈夫よ、向こうも部員不足で大変だろうから、助け合いということで」
新聞部が提供した新聞での無料広告掲載は、あっけなくミステリー研究会の2人に回収されてしまった。
後日、金一封でなかったことを知ったいまりの落ち込みように、佳代は軽く罪悪感をおぼえてしまったことはまた別の話だが……
『ミス研佳代の野望』
続く・・・