姉妹物語 12話
〜ジュンと千明〜

竜宮たつき


「千明〜」
「………なんですか?」
「今の間は何かしら?」
「嫌な予感……、いえ、なんでも」
「ま、いいや。あのね、新聞部が無料で広告を掲載してくれるらしいの」
「……」
「今度の冊子の宣伝に使いたいんだけど、見つけてきてくれない?」
「えっ!? 1人でですか? 一緒に来てくださいよ、ジュン様?」
「ダメ、ウチはまだ原稿が残っているの。イメージがあるうちに書いてしまわないと」
「でも1人では……」
「多分、時計塔か本校舎のどっちか。多分、時計塔だろうからそっち優先で探してきて」
「そこまで分かってるんなら一緒に……」
「お願い、千明〜」
「……うぅ、分かりましたよぅ」

 わざとらしく目をうるませたジュンに、千明はそれ以上なにも言うことができずに時計塔に向かうことになった。
 しかし千明は1人で時計塔に向かっていると、道半ばでポケットの中の携帯電話が鳴った。
 携帯電話のサブ画面には原稿を書いているはずのジュンの名前があり、不審に思いながら電話に出た。

「……どうかしましたか、ジュン様?」
「もう帰って来なさい」
「はい? チケットとやらはまだ見つけていませんよ?」
「もう見つかったからいいのよ、帰って来なさい」
「ですが……」
「帰ってきたら分かるわ」
「はい……」

 不機嫌な様子のジュンの声音に、わけが分からないまま千明は部室に帰った。
 そしてそこにいたのは、ミス研の満点笑顔な佳代と少し苦い顔をしているいまりと、そして今にも爆発しそうなほど怖い顔をしたジュンだった。

「あら、おかえりなさい。千明ちゃん」
「ウチの大事な妹を気安く呼ばないでくれる?」
「怖いわね、せっかく良い物を持って来てあげたのに」
「……あの、どういった事情なんでしょう?」
「はい、これ。千明ちゃんが探しに行っていたチケットね。2枚あったから1枚をプレゼントしようと思ってね♪」
「条件は?」
「あらあら、分かってるじゃない? こっちから一本、話を載せさせてもらって、そっちからも一本書いてもらって、合同で宣伝、両誌でお互いの宣伝をするの」
「……アンタにしてはえらくまともな条件ね? そんなことでいいの?」
「ミス研も文芸部も部員事情は厳しいんだから、協力しようということよ」
「分かった、千明が書いてくれるから。というわけだからよろしくね、千明♪」
「はい!? 私ですか?」
「そうよ。ウチは今、自分の原稿で手一杯だから」
「だったらミス研のほうはいまりに任せようかな。期待の若手が両誌に寄稿、いい宣伝文句になるわね」
「「……」」

 両部の部長2人は最初の剣幕に比べれば、正反対なくらい打ち解けてしまっていた。
 しかし、原稿を言い渡された2人は完全に置いてけぼりになっていた。
 2人は顔を見合わせて一言、

「お互い苦労しますね?」
「ほんとに、今日は1日ジュン様に振り回されっぱなしですよ」
「「はは、は〜」」

 2人の口からは乾いた笑いとため息がもれた。
 実はジュンと佳代は小等部のころからの付き合いのある仲で、お互いのことをずっと知っていた。
 それを知らない後輩の2人は、妙なほど打ち解けた2人に嫌な予感しか感じなかった。

『いつもの2人』
 

 続く・・・


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