「ね〜、やっぱり沙羅様とかにそれとなく聞いてみるとか〜」
「美月さんに聞いてみるとかー」
「「しようよ、塔子ちゃん?」」
「ダメだよ、アサちゃん、ユウちゃん。それじゃズルになっちゃうよ」
「「えぇ〜ー」」
「えぇ〜、じゃない!」
生徒会の一年生の三人、塔子と朝凪と夕凪は新聞部の宝探しの真っ最中だった。
ちなみに、かおりは実家の用事があり2、3日学校に来ていなかった。
この三人の組み合わせのため、普段は楓にべったりな塔子も、朝凪・夕凪姉妹の前ではしっかりするようだった。
同い年でクラスメイトでもある3人は、新聞部の企画の宝探しに参加していた。
お目当ては生徒会が提供した各教科参考書一式(生徒会メンバーによる解説付き)だった。
生徒会は2、3年で構成され、いずれのメンバーも秀才天才揃いのスーパー集団である。
もちろん塔子は楓から、凪姉妹は沙羅から勉強を教えてもらっているが、時間的に限界がある。
そして塔子の心の中には、良い点を取って楓様に褒めてもらおう、そんな下心があったりもする。
朝凪と夕凪はそんな塔子に面白がってついてきただけだった。
「でもさー、ユウたち勉強好きじゃないからー」
「このヒントじゃ分かんないよね〜」
「『勉強好きな貴女なら分かるはずよ』だもんね。アバウト過ぎだよ〜、美月さん……」
美月の思ったとおり、参考書を目指すみんなが苦戦するのは『勉強好きな貴女なら分かるはずよ』という、ヒントにすらならないヒントだった。
もちろん塔子も朝凪も夕凪も勉強は好きではない。
お姉様とするのならそれなりに頑張れるのだが、1人で勉強するとどうしても違うところに意識が行ってしまう。
だからこそ、参考書を目指しているのだが、勉強好きには分かる場所というのがどこなのか分からない。
図書館が宝探しの範囲外に指定されている事が、より探す事を難しくしている。
「どこ探す〜」
「どこ探すー」
「「探さない〜ー?」」
「探すよ! 頑張って楓お姉様に褒めてもらうの!」
「下心まるだし〜」
「えっちー」
「「ふけつ〜―」」
「そういうことじゃないの! そんなことよりどこかない? 勉強好きな人が行くところ」
「図書館とか〜」
「そこは範囲外だから他には?」
「教室とかー」
「多すぎてどこか分からないし……」
「自習室は〜?」
「そこも範囲外」
「職員室とかはー?」
「それも範囲外。外は範囲内になってるけど」
「お邪魔するわけにはいかないもんね〜」
「いちいち来ると邪魔だもんねー」
「そういえば、職員室の外って〜」
「いらなくなった参考書をつんでるよねー」
「そうなの?」
「塔子ちゃん、そんなことも知らないの〜?」
「知らないのー?」
「「おバカさ〜ーん」」
「……うぅ〜、ごめんね………」
「「……」」
とうとう泣きの入ってしまった塔子をなだめながら、凪姉妹は職員室の前にある参考書の山の前まできた。
そこはおもに上級生が使わなくなった参考書を、有意義に使ってもらうために学校に寄付して置いている場所。
書き込みのあるもの、比較的きれいなもの、いろいろと置かれていた。
「夕〜、あった〜?」
「なさそうー。塔子ちゃん、そっちはー?」
「……これかな?」
塔子が手に取ったのは1枚の白い紙切れ。
参考書と参考書の間に挟まれていた、薄い白い一枚の紙。
後ろには美月のサインと新聞部の判子が押してあった。
「それだよ、やったね、塔子ちゃん」
「天才だよ、塔子ちゃん!」
「え、えへへ。そうかな?」
「「じゃあ行こう!」」
凪姉妹は塔子の手を取って一路、亜矢のいる新聞部の部室へ。
部室には談笑している亜矢ともみじがおり、3人の顔を見た亜矢は、
「アナタたちも出てたんの? しばらく前に、生徒会の面々に金一封を持ってかれたところやよ」
「楓お姉様も?」
「そうそう。アナタたちの沙羅ちゃんも一緒だったわよ?」
「じゃあ何かおごってもらわないと♪」
「あっはっは、さっそくかいな。で、ご用件は宝探しかな?」
「はい、これ」
「……ふむふむ、どこにあったやつかな?」
「職員室前の参考書置き場です」
「うん、正解。狙いはお姉様方の参考書かな?」
「はい、まあ」
「そっか、とりあえず……、これが賞品の参考書ね」
塔子に手渡されたのは、13冊にも及ぶ各教科の使い古された参考書だった。
いずれにも細かく書きこまれ、丁寧な解説がされている。
「勉強、頑張ってね? お姉様に負けないように。あの子らの頭の良さは半端ないけどな」
「はい、頑張ります」
いつかは自分たちも生徒会の一員として、生徒を引っ張っていくことになる。
偉大なお姉様の助けを借りながら、少女たちは成長していく。
『進むべき先へ』