「どこに行きたい、塔子?」
「楓お姉様とならどこへでも」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「大好きですから♪」
「……あふぅ!」
塔子の何気ない一言にもすでに楓はノックアウトだった。
口を手で隠して、塔子を視線から外した。
心の中で、
「(あぁ、なんて可愛いの! この子は世界一よ!)」
そんなことを考えて悶えている。
一方の塔子はよく分からないまま、首をかしげている。
そんな塔子の様子に気付いた楓が、
「と、とりあえず行きましょうか?」
「はい!」
2人はどこへとも決めずに歩き出した。
しかし、
「それにしても、本当にどこでもいいの?」
「はい、楓お姉様とならどこへでも♪」
「困ったわね〜。私も特に行きたいところなんてないのよね〜」
「あ、あの……、じゃあこうしませんか?」
その後、買い物だけして2人は学校に戻ってきた。
休みの学校は、クラブ活動をする人たちがまばらにいるだけで、普段よりはかなりさっぱりしている。
「じゃあ始めましょうか?」
「はい! お姉様!!」
洋菓子研究部が使っている調理室を一緒に使わせてもらい、料理を2人で始めたのだが、
「塔子、包丁には気をつけて」
「塔子、タマゴの殻が入ってるわよ?」
「塔子、それは塩じゃなくて砂糖よ?」
「塔子、油を敷かないと」
塔子の危なっかしい料理に、楓は気が気ではなかった。
塔子の提案は2人でご飯が食べたい、ということだった。
ただの外食では面白くないと思った楓は、食材を買って学校で2人で調理しようという提案をした。
しかし塔子の料理の腕前は、残念なことこの上なかった。
指を伸ばしたまま野菜を押さえて切ろうとするし、卵は握りつぶしてしまうし、塩をスルーして砂糖に手を伸ばすし、日を入れたフライパンに直接とき卵を流し込もうとする。
そんな塔子でも楓の助けを借りながら、なんとかかんとか料理完成までいきついた。
「良かった、ちゃんと完成して」
「そ、そうですね……」
「大丈夫、これから勉強していけばいいのよ」
「……うぅ、お姉様〜」
「気にすることはないのよ、私も最初はそうだったから」
「そうなんですか?」
「私も昔、お姉様にお料理を作ろうとして、大失敗したわ〜。いつの間にか私が……」
「へ〜、楓お姉様にもそんな時期があったんですね」
「えぇ、猛練習したわよ。塔子も今は出来なくても、努力次第なのよ? 失敗したことを憶えておいて、次は失敗しないようにすればいいのよ」
「はい、ありがとうございます」
二人で食べながら、楓は塔子に料理の基本を1つずつ教えていった。
そして最後に1つ、
「料理に1番大切なものは何だと思う? ベタなことだけど、食べる相手を思うこと。それができる塔子なら、きっと上手になるわ」
「……はい!」
「じゃあ片付けましょうか?」
お料理会はこうして幕を閉じた。
残ったお金はその後しばらくの、楓と塔子のお弁当代になったとさ。
『大切な人とのランチタイム』