「会長、これは?」
「今は2人きり」
「……美月様、まずは質問にお答え下さい」
「違うでしょう?」
「……何がでしょうか?」
美月は2人きりのときと生徒会室の中にいるときだけは、役職ではなく名前で呼ばせようとする。
しかしお堅いフェイトは、あまり美月のことを名前で呼ぶことはなく、美月がことあるごとに訂正している。
「お姉様と呼んでほしいわ〜、塔子ちゃんみたいに、可愛く愛らしく、甘く呼んでほしいわ」
「お断りします」
美月の提案は、考える間もなくあっさりと切り捨てられた。
「は〜、お堅いわね〜。これは誕生日ケーキ。お誕生日おめでとう、フェイト」
「………はい?」
「だから貴女の誕生日ケーキよ」
「ワタシの誕生日はまだ7ヶ月ほど先ですが?」
「いいじゃない。7ヶ月後にもまだアタシがフェイトの横にいるか分からないんだから」
「まあ、確かにそうですが……」
「じゃあこうしましょう。アタシはケーキが食べたかったから、ついでにフェイトの誕生日をお祝いしようと思ったの」
「は〜、分かりました」
どうにもなっていないが、美月がケーキを食べるために用意しただけだということにして、フェイトはそれ以上何かを言うことを諦めた。
それに、フェイトもお茶だけより、甘いものがついたほうが嬉しいと思う、普通の女の子だったから。
「うふふ、じゃあ……、はい、あ〜〜ん」
「………」
「なあに、その目は?」
「いえ、相変わらずだと思っただけです。公衆の面前で恥ずかしくないんですか?」
2人は喫茶店のオープンテラスに出てきていた。
もちろん、すぐ横を人が歩いていて、ちらちら2人を見ている。
理由は美月のあ〜んと、2人の目立つ容姿のおかげ。
黒髪美人の美月と金髪碧眼のフェイトが座っていれば、目立つのは仕方のないことなのかもしれないが……
「さあ、遠慮なんてしなくてもいいのよ?」
「いえ、遠慮というわけでは……」
「じゃあ何、アタシが用意したケーキは食べれないと?」
「いえ、そういうわけでも……」
「じゃあ食べられるわよね? はい、あ〜〜ん……」
「………………はむ」
精一杯の沈黙と熟考の上、フェイトはいろいろと諦めた。
美月に諦めてもらうのは不可能だと悟ったフェイトは、顔をほのかに赤くしながらケーキを頬張った。
「おいしい?」
「……はい」
「そう? 頑張って作った甲斐があったわ」
「へ?」
フェイトは素っとん狂な声を上げてしまった。
ケーキは持ち込んだものではなく、店員さんが運んできたものだった。
むろん、フェイトはお店のものだとばかり思っていたのだが、どうやら違うようだった。
「あらあら、このアタシが愛する妹のためにただの何の変哲もない普通のケーキを用意すると思う?」
「……こんな場所なんで」
「えぇ、ここのマスターとは知り合いなの。だから頼んでみたらオッケーをくれたから、頑張っちゃった♪」
「だったら最初からワタシか、美月様の家ですればよかったんじゃないですか?」
「そりゃ、こんな場所であ〜んされて、頬を赤く染めるフェイトを見たかったから仕方のないことよ」
「……こんな場所でしたら、他の人にも見られますよ?」
「あら、言うようになったじゃない? 見たかったから仕方ないわね。諦めましょう」
「は〜……、美味しい紅茶が飲みたいです」
「分かったわよ、レモンティーで良かったわよね?」
「マスターの腕前は?」
「ふふ、一級品よ」
「じゃあミルクティーでお願いします」
「りょ〜かい」
外でのお茶会には少し暑いが、それもまた良い飾りとして2人の間にあるのかもしれない。
『15時ティータイム』