「フェ〜イト!」
「ひゃう! ……こほん、美月様?」
「ダメよ、フェイト。もう一度、ひゃう! のあとを言い直してちょうだい」
「お断りします! どうして美月様はいつもそうなのですか?」
「何がかしら?」
「いつも言っているじゃないですか! いきなり抱き付くのはやめてください!!」
「分かったわ……、抱き付くわよ?」
「ちょっ! 確認してもダメです!」
「だって、フェイトがいきなりはダメだって言うから」
「重要なのは抱き付かないでください、の部分です!」
「顔が真っ赤よ、そんなに嬉しかったかしら?」
「嬉しくありません!!」
「照れなくてもいいのに〜」
「て、……もういいです!」
生徒会の会長として、学校の代表を務める美月と、美月の片腕として手伝いをするフェイト。
そんな美月はいつも、ことあるごとにフェイトに引っつきにいく。
フェイトがまだ留学して来て間もない頃から、ずっとコミュニケーションと称して抱きつきにいっていた。
「あら、かわいらしい子ね。お名前は?」
「……フェイトです」
「いいお名前ね、きれいなフェイトちゃんにぴったりだわ」
「………ありがとうごさいます」
「しっかりしているのね、クラブ活動はしているの?」
「特に何も」
「入りたいクラブも?」
「特には……」
「そう、じゃあちょうどいいわね。少しいいかしら?」
「え、えっ?」
2人の出会いはこんな風に、美月が無理やりに生徒会室に連れて行った事で始まった。
そして何も説明しないまま美月はフェイトを生徒会に入れてしまった。
始めはフェイトも断ろうとしたが、
「アタシと一緒に頑張りましょう♪」
「……ですが」
「イヤなの?」
「いえ、そういうわけでは……」
「じゃあ問題ないわね♪」
美月の満面の、そして屈託のない笑顔にだまされ、断れないまま今の状態となった。
そしてしばらくして気付く、あの笑顔は計算されたものだったことを。
「美月様は生徒会長なんですから、もう少し規範を自覚してですね」
「分かったわよ、よ〜く分かったわよ」
「そうですか。それはよかったです」
「フェイトはアタシが嫌いなのね〜」
「はい!?」
「だって抱きついたら怒られるし、腕に絡み付いても怒られるし、チューしようとしても怒られるし」
「それは怒りますよ」
「触れられるのもイヤなのね〜〜〜」
「いえ、そこまでは」
「……じゃあアタシのこと、好き?」
「いえ、好きとかでは……」
「やっぱり嫌いなんだ〜〜〜」
「嫌いとかでは……」
「じゃあ、どっちなの? 好き? 嫌い?」
「うっ、そ、その……」
「言えないということは、やっぱり嫌いなのね?」
「あ〜、もう! 好きですよ!」
「じゃあ抱き付いてもいい?」
「それはちょっと……」
「うぅぅ、実はやっぱり嫌いなのね?」
「もう〜〜〜、分かりましたよ! そのかわり人前では慎んでくださいよ!!」
「うふふ、分かったわ。考えておきましょう♪」
結局、この日もフェイトの反抗は空振りに終わってしまった。
結果は常に美月の思い通り、それは分かっているのに断れない、押しに弱いフェイトだった。
『運命の出会い』