「ど〜っちだ?」
「……夕ちゃん?」
「ぶっぶー、夕はこっちー」
「ショック〜、朝の声も分からないなんて……」
「そもそも、ど〜っちだって何よ? ふつうは、だ〜れだ、でしょ?」
「だって、ね〜?」
「沙羅様にこんなことするのはー」
「朝と〜」
「夕だけー」
「「だもん!」」
「そんなこと無いわよ!」
「え〜」
「他にもいるのー」
「い、いるわ……よ」
「ふけつ〜」
「ふりんー」
「「サイテ〜ー」」
「そ、そういう意味じゃないでしょ! じゃれあったりできるような友人がいるっていうだけで」
「「いるの?」」
「い、いるわよ! 美月さん、とか……」
「ほかには?」
「うっ、いるわよ……あの〜、えっと」
「美月さまは〜」
「誰にでもするよー」
「「沙羅様かわいそ〜ー」」
「かわいそうとか言うなー!!」
双子の朝凪と夕凪は、本人いわく一卵性双生児であるため、見た目も声もそっくりで、大きめのリボンを目印にしているのだが、それがなければほとんどの人間は見分けがつかなくなる。
そんな朝凪、夕凪姉妹はこの日も沙羅で遊んでいた。
沙羅のほうが1学年先輩にもかかわらず、力関係は朝凪、夕凪姉妹のほうが上だった。
2人を相手にする沙羅はてんやわんやだったが、その顔は笑顔で、どこか楽しそうだった。
「ところで沙羅様〜? 今日この後は?」
「とくに何も。生徒会の仕事も一段落してお休みだから」
「じゃあ今から3人でお買い物に行きましょうよー」
「えぇ、構わないわよ」
「やった〜、じゃあ何か買ってくださいね」
「どうしてそうなるのよ!」
「だってー、塔子ちゃんは楓様からハンカチをもらったってー」
「出会って1年の記念だって〜」
「「何かほしい〜ー」」
「まだ半年を過ぎたところよ!!」
「じゃあ半年の記念で〜」
「朝ちゃん、それいい! だからお買い物に行きましょう、沙羅様!」
「まったく……分かったわよ。そのかわり、あんまり高価なものはダメよ」
「「やった〜ー」」
沙羅は気付いていないが、朝凪と夕凪の影響というものは確実にあった。
もともとマジメでお堅い印象を持たれがちだった沙羅だが、2人と関わるようになってからそんな周囲の印象は薄れていった。
それに沙羅自身がまとっていた、近寄りがたいオーラも最近はなりを潜めている。
そのかわりこの日、沙羅は2人にパフェをおごらされた。
沙羅は2人から元気と活気をもらっている。
元気と活気は金銭にかえることのできるものではない。
故に沙羅は2人に何も言わない。
3人の関係は本物の姉妹のようにかけがえのないものになっていっている。
『心の姉妹』