姉妹物語  第4話
〜朱里とかおり〜

竜宮たつき


「ここはどうしたらいいんですか?」
「そこはさっきの公式を使って分解したらいいのよ」
「そっか〜。ありがとうございます、朱里様」
「どういたしまして」

「ねえ、かおり。ここの日本語訳は分かる?」
「えぇっと、それは半分が主語になっているんで、分けて考えれば簡単ですよ」
「そっか、どうりで……」
 
 朱里とかおりはいま、刻々と近付いてくる中間試験を乗り越えるために図書館で2人、勉強中だった。
 朱里は理数系を得意とし、かおりに数学や化学を教えながら自身の勉強をしている。
 しかし、外国語が苦手なため、英語の得意なかおりに聞きながらの勉強になっている。
 一方のかおりは12歳まで両親の都合でヨーロッパを転々としていたことから英語を得意とし、1学年上の朱里の質問にも答えている。
 そのかわり、理数系は苦手なので、朱里を頼っている。
 そしてこの勉強会も、試験ごとに行われる2人の大事なイベントの1つになっていた。
 
「助かるわ、かおりのおかげで英語の理解が早いのよ〜」
「かおりも朱里様のおかげで、数学は乗り越えられそうです〜」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「かおりもです〜」
「年長者だもの、かわいい妹に教えてあげられるのなら、いくらでも頑張るわ」
「かおりだって、大切なお姉様のお役に立ててとってもうれしいです!」
「それにしても、ほんとうにすごいわね〜。英語とフランス語と?」
「ドイツ語が少しとラテン語もちょっとだけ話せます」
「よくそれだけ覚えられたわね〜?」
「……しゃべれないと、何もできませんでしたから。遊ぶことだって、お買い物だって」
「そう、妙なことを聞いてしまったわね?」
「いえ、大丈夫です。おかげでこうしてお役に立てているんですから!」
「………」
「どうかしました?」
「あ〜♪ かおりちゃんはかわいいわ〜〜! わたしは幸せよ〜〜〜!!」
「く、苦しいです!」
「あぁ〜、ごめんなさい、大丈夫?」
「……はい、なんとか」
「わたしったらついつい……」
「あのっ、大丈夫です! もふもふしてました!!」
「……」
「あ、あの……」
「ふふ♪」
「ふぇあ!」
「あ〜〜〜、いい抱き心地♪ 最高よ、かおりちゃん!」
「うきゅ〜……」
 
 2の勉強は進んだり進まなかったり。
 ときどきこうして脱線しては、そのまま話し込んでしまう。
 それでも2人は同じ時間を共有し、幸せな一時を過ごしている。
 成績は上位をキープし続ける2人にとって、幸せな一時を過ごせるということはなによりのやる気の元なのかもしれない。

『幸福のスパイス』
 



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