姉妹物語  第5話
〜咲夜と衛〜

竜宮たつき


「これぐらいでどう、衛ちゃん?」
「いっ、痛!」
「じゃあ……、これぐらいかしら?」
「あふ、くすぐったいっす!」
「じゃあ、こっちは?」
「あぅ!」
「どうなの?」
「き、きもちイイっす〜」
「えっちいわね〜、その色っぽい声が大好きよ」
「………」
「あら、口を閉じてもムダよ、こ・こ♪」
「はぅ!」
「ほーら、こ・こ・も♪」
「やっ!」
「あ〜〜、楽しいわ〜」
「……咲夜様?」
「ごめん、ごめん。ちゃんとやるわね」

 衛は陸上部の練習後マネージャー兼トレーナーの咲夜にマッサージをしてもらっている。
 けっして、何かやましいことをしているというわけではない。
 咲夜は衛の反応の一つ一つを面白がって、力加減を変えながら遊んでいた。
 それでも咲夜の腕はたしかなようで、しばらくして立ち上がった衛に、

「足の調子はどう?」
「さすがっすね、だいぶ軽くなりました」
「それは良かった。もうじき大会だから念入りにね」
「はい、咲夜様の分まで頑張りますっす」
「ふふ、ありがとう。楽しみにしているわ」
「でも、咲夜様はもう跳ばないんすか?」
「えぇ、多分ね」
「そうっすか……」

 咲夜はかつて、走り幅跳びの選手として陸上部を引っ張っていた。
 一年ながらに大会でも注目され、さらに穏やかで心配りのできる性格、人望もある、いわゆるなでも超人だった。
 しかし2年の春、練習中に靭帯を切り、咲夜は練習ができなくなった。
 そのため、しばらくはリハビリをしながらマネージャーのような仕事をしていた。
 復帰してからも体がもとのように動くようになるには、かなりの時間を要した。
 そして次の年の春、新しく入部してきたのが衛だった。
 荒っぽい跳び方でムラの多い子だったが、そんな衛の才能にほれ込んだ咲夜は、衛の専属トレーナーのような立場になり、いろいろと世話をするようになった。

「ワタシは自分以上の才能に出会ってしまったの。跳ぶとしたら、衛ちゃんが迷ってしまったときかな」
「もったいないっすね、ボクは咲夜様のジャンプにあこがれてここに来たのに」

 衛は咲夜の現役時代のジャンプを見ており、キレイで、繊細で、ときに豪快なジャンプを見せる咲夜に憧れていた。
 そして同じ舞台に立つ日を夢見て、この学園を選んだ。

「うふ、おだてても何も出ないわよ♪」
「そのわりには嬉しそうっすね」
「あら、言うようになったわね?」
「いえいえ、そんなつもりじゃないっすよ〜」

 見初めた咲夜と憧れた衛。
 2人はお互いを認め合い、支え合いながら高みへと昇っていく。

『明日への跳躍』
 



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