「ぷはっ!」
「お疲れさま、今日もお姉様の勝ち、あまねの負けね」
「くっ、そうですね、リオ様」
「違う違う。うぅ、そうでございますわね、リオ姉様って目を潤ませながら言うのよ」
「どうしてそこまで!」
「だって、ねえ? 負けたらなんでも言う事を聞いてくれるんでしょ?」
「うっ、まあ……」
「約束よね〜?」
「くっ……、はい」
「お姉様は、プールからあがって待っていられるぐらいの圧勝よね〜?」
「くっ、そ、そうでございますわね、リオ姉様」
「ふふ、わかればいいのよ。その口調を明日まできちんと続けるのよ?」
「分かりました……」
水泳部の2年のリオと、1年のあまねはいつものようにプールの端のスタート台に立っていた。
そしてスタートの前にこんな約束をした。
「リオ様、今日こそアタシが勝ったら、パフェをおごってもらいますよ!」
「あら、カワイイ。パフェ? 何パフェかしら? すごく女の子っぽいわね?」
「今なんとなく食べたいだけです!」
「まあ構わないわよ。お姉様に勝てたらね? じゃあお姉様が勝ったらいつものやつね?」
「ふ、ふん! かまわないですよ!」
こんな言葉を交わして始まった一勝負だったが、結果はリオの圧勝だった。
まあ、いつものことなのだが。
「さあ、今日はもうあがりましょう」
「……はい、リオ姉様」
「不服そうな顔? よっぽどその口調はイヤなの?」
「そ、そうでもございませんわよ、リオ姉様」
「あら、慣れてきた? じゃあ違うことにしてみようかしら……」
「えっ!」
「ふふ、嬉しそうな顔? やっぱりしばらくこのままでいいわね♪」
「くっ! ……冗談がすぎますわね、リオ姉様」
「楽しいでしょう、これぐらいのほうが」
「そうですわね」
「でしょ〜」
あまねが入部してしばらくして、2人が仲良くなった中間テスト後から、こんな光景はほぼ毎日のように続いていた。
ある日、リオが一勝負しないかとふっかけ、あまねはノリノリでそれに応じた。
中学のころから水泳をしていて、自信があったあまねだが、リオとの一戦でその自身は見事に砕かれた。
リオはあまねよりずっと早くにゴールに到着し、プールから上がってスタート台の上で待っていた。
「あまねちゃん、速いわね〜。自信を持っていいわよ?」
「……」
「ふふ、そんなに睨まないで、大丈夫よ。自由形でアタシに勝てるのはお姉様ぐらいのものだもの。落ち込むことはないわ」
「あ、その……」
「どうしたの?」
「あ、明日も挑戦してもいいですか?」
「……えぇ、もちろんよ」
それ以来、勝負するようになり、いつのころからかバツゲームがつくようになった。
そんな放課後の一時、リオはもちろんのことだが、あまねもどこか楽しんでいるようだった。
『お姉様は好敵手』