姉妹物語  第7話
〜ジュンと千明〜

竜宮たつき


「ジュン様、ここってこんな感じでいいですか?」
「どれどれ……そうね〜、もう少しインパクトが欲しいわね」
「だったら、文字色を変えて、サイズをあげてみますね」
「カラフルにしたらどうかしら? 7文字だったら虹色にできるのにね〜?」
「これを長くするのは無理でしょう?」
「まあ、ねえ?」

 部室棟の一角、文芸部のさほど広くはない部室内で、部長のジュンと編集担当の千明は2人で次の冊子を作っていた。
 冊子の表紙を作りながら、2人はそのデザインの昇華にいそしんでいた。
 ここ最近、2人の所属する文芸部は部員不足で満足に冊子を作れないでいる。
 今回も百ページに届かず、ため息まじりのジュンだった。
 子どもの活字離れという話題は、2人にとってはまさしく耳のいたい問題だった。

「は〜、活字のどこが気に入らないのかしら?」
「読むのに時間がかかりますし、伝達方法が文字だけですからどうしても、といったところじゃないですか?」
「それがいいのに! 文字だからこそ伝わるキャラクターたちの表情を読み取るのには、時間を掛ける価値は十分にあると思うの!」
「そ、そうですね……」
「なのに、ウチの部は……」
「私たちをいれても6人ですね」
「そんなあっさりと……」
「まあ、これが現実ですし」
「何か良い方法はないのかしら? こう、画期的な方法は……」
「……さあ〜?」
「こう、千明とできる何か、……2人のリアル恋物語とか?」
「あの、私たち女同士ですけど……」
「いいのよ、最近の流行らしいから。それにアタシは千明のことは好きよ」
「……その言葉はもっと別の状況で聞きたかったな〜、なんて」
「従順な千明が大好きよ♪」
「あ、あんまり嬉しくないです……」
「よし! それでいきましょう!」
「えっ!?」
「だから千明はこれからは、アタシを「お姉様」とあま〜くとろけた感じで呼んでね?」
「や、お断りします」
「どうして?」
「…………」
「困った顔もステキ♪」
「…………」
「ふふ、冗談よ♪ そんなに怒らないで?」
「冗談に聞こえませんよ……」
「ふふ、さあ! 冗談はこれぐらいにして、作業を続けないと」

 結局、すぐに再開しようとした千明とは対照的に、千明をニコニコと見つめるジュン、作業が再開される雰囲気はなかった。

「なんですか?」
「いいえ、なんでも♪」
「………そんなに見られると恥ずかしいんですけど?」
「気にしないで♪ 頬がほんのり赤い千明も、色っぽくて素敵よ〜」
「……帰らせてもらいますよ?」
「ジョークよ、ジョーク♪ さあ、はじめましょう!」

 些細な会話もおもしろおかしく、しかし表紙作成はまったく進まず。
 しばらくすると残り4人の部員も合流し、作業はようやく進展の兆しを見せはじめた。
 2人、とくにジュンにとっては作業よりも、一つ一つの会話が大事なのかもしれない。

『紡ぎだす2人の時間』
 



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