姉妹物語  第9話
〜静と仁美〜

竜宮たつき


「まったく、あの子たちは……」
「どうかしたんですか、静様?」
「仁美は新聞部のイベントに参加するつもり?」
「いいえ、特に欲しい物もないので、今のところは参加するつもりはありませんね」
「そう、私も特には。一応は主催者の側だし……」
「気にする必要はないと思いますけどね? 亜矢様も理事長の金一封は欲しいらしいですし」
「理事長まで巻き込んで、あの子たちはほんとに……」
「まあ、発案から企画まで、ほとんど亜矢様らしいですし」
「そういえば、亜矢ったら生徒会に話を通して、こっちには何も言わなかったのよ?」
「まあ、風紀議会に話を通したら面倒だと思ったんでしょうね」
「前日にいきなり来たと思ったら、楓を連れて来るし」
「ははは、静様は楓様が苦手ですもんね?」
「べ、別に苦手ではないわよ! 昔からの知り合いっていうだけで」
「幼馴染らしいですね?」
「……一応、ね」
「亜矢様が楓様を連れて入ってきたときの顔、ぜひ鏡で見せてあげたかったですね」
「仁美!」

 2人は風紀議会の議長と書記の役職を持つ、風紀議会の重役である。
 静は働き者でマジメ、風紀議会一の堅物で通る典型的な仕事人だった。
 しかし静の右腕として働く仁美は、静とは正反対な人物だった。
 面白そうなことにすぐに首を突っ込むし、小さなケンカを引っ掻き回して大騒動にしたり。
 しかし丸く収まっているのだから、計算されているのかもしれないが、仁美のそれは実益よりも趣味を尊重した結果に過ぎないというのが、学園内でのもっぱらの噂だった。
 今回の新聞部の企画にも、静は反対していた。
 そんな静を丸め込んだのは、楓と静の右腕である仁美だった。


 遡ることしばらく前、風紀議会室に3人の来客があった。
 右から順番に生徒会の美月、楓、そして新聞部の文の3人だった。
 企画を承認しようとしない風紀議会の承認を得るため、3人は風紀議会室に来ていた。
 そして静の一言は、

「こんなものを承認できると思っているの?」
「そう言うと思った。というわけで、まずはこれね」

 美月が手に持っていたカバンから、一枚の書類を取り出して静に手渡した。
 書類を見つめる静の一言は、

「……承認証? ……全員から承認をもらったわけ?」
「えぇ、そうよ。主任の先生から生徒指導の先生、主だった担任の方など、13人からいただきました。印もちゃんとあるでしょう?」
「これだけあれば問題ないやろ?」
「しかしここに風紀議会の顧問の名前はありませんよね?」
「まあ、あの子に任せるって言ってたよ?」
「なら承認しかねます」
「そう? だったらこれも」

 そして美月はさらにもう一枚、カバンから書類を取り出した。
 それを見た静は、苦い顔をして一言、

「…………どうして」
「それだけじゃいま一つ押しが足りないと思って、理事長にもお墨付きをいただいたの。これだったら問題ないんじゃない?」
「あ、ちなみに言っとくけど、理事長の承認があったから他の先生が許してくれったってわけじゃないんよ? 先生方も理事長の承認が出てる事は知らんからね?」
「………書類をよこしなさい」
「やった、助かるわ。それでこそ風紀議長」

 味方のいない状態になった静は賛成するしかなかった。
 書類に承認印を押し、静は亜矢に返した。


「は〜、どうして私の周りにはこんな変なのしかいないのかしら……」
「類は友を、………申し訳ありません」
「分かればよろしい」
「それより、静様は本当に参加しないのですか? 静様の大好きなシスター天苗のお手製のロザリオが景品になっていますよ?」
「べっ! 別に大好きなどでは!」
「……? シスター天苗に会いたいがために、毎週ミサに参加している人の言うセリフですか?」
「なっ!」
「ふふ、私たちも参加しても大丈夫ですよ? 亜矢さんには許可をとっていますから。生徒会の皆さんも参加するらしいですし」
「………まあ、貴女がそこまで、言うのであれば」
「フフ、ほんとうは嬉しいくせ――、はい、すいません」
「分かればよろしい」

 静の一睨みに仁美は口を閉じたものの、顔は笑ったままだった。
 仁美は物事を面白い方、面白い方に持っていこうとするが、仕事はきちんとしていた。
 楓や美月とも裏でつながって、静で遊んでいるのだという噂まである。
 有能だが、フランクで軽い雰囲気は下級生のうけもよく、次の議長の最有力候補だった。
 そんな有能な跡継ぎに恵まれた風紀議会議長は、残り少ない時間を平和に過ごしたいと願ってやまなかった。

 『騒ぎ立つ放課後』
 



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